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業者が声を合わせ、健康への危機感を煽る
相次ぐ摘発でも「催眠商法」は無くならない

普段催眠商法とは、主に高齢者をねらって会場に集め、業者が健康不安を煽って高額な健康食品や布団を買わせる手法。相次ぐ摘発にも関わらず、その手口は進化し、今も被害は無くなっていない。
2004年12月、取材班は東京都町田市で催眠商法の現場を直撃した。閑静な住宅街に突然、長い行列ができている。近づくと、大半は高齢者で手には「大特価・タイムサービス」と書かれた1枚の券を持っている。常連客によれば、ここは健康食品の店で、定価1,000円以上の物が100円で買えると言う。但し、「話を聞くこと」が条件なのだ。取材班も会場の中に入ってみた。

ゲームや歌などで盛り上がる会場内では
「万病に効く」という高額健康食品が飛ぶように売れていた

会場内では、音楽が大きな音で流れ、20代と思われる店員達が忙しく動き回っている。
そして店員が「これ、若返りの水」と言いながら、来場者に水をついでいる光景も。会場は満員で、100人近い人が集まった。挨拶に続いて、なぜかげゲームが始まった。別の日に、取材班が潜入した時は、歌で会場を盛り上げていた。必ず、会場内の客全員が動きや声を揃えるのが重要らしい。こうした前ふりの後、話題はようやく「健康」へと移った。店長が登場し、約1時間、健康について語る業者。そして、会場では様々な商品を紹介するカタログが配られる。

しかし、業者の健康指南話の最後に登場したのは、このカタログには載っていない商品だった。ある健康食品で、販売価格は36,000円。サンプルが来場者全員に配られた。業者は、この商品を「50本限りの入荷」と希少性を強調する。そして、食品の原料の説明。非常に貴重な漢方を使っていると、またも希少性をアピールする業者。胃潰瘍、胃腸関係の特効薬と言われる漢方で、コレステロールを下げる薬として珍重されており、関節痛・神経痛にも良いと効果を強調する。その後も、睡眠に良い、冷え症の特効薬である、婦人科系の病気・更年期障害の特攻薬、脂肪燃焼にも…等、薬効の説明が続く。さらに、業者は「婦人科系のガンの方には、非常に良い」、「万病に効く」等、薬事法違反スレスレのトークを繰り返す。
店長の説明に対して、周りの店員が「ハイッ!」、「ハイッ!」と合いの手を入れる。これが、非常な早口で行われる。また、「○○大学の薬学部に持っていき、漢方の原材料を持ち込んで、万人のありとあらゆる病気を持っている人に、良い結果が出るように研究・計算してもらった」と信頼性の高さを強調する業者。会場では、この商品が飛ぶように売れた。
消費者問題に詳しい法律家に、販売方法の問題点などを聞いた

悪質商法問題の専門家、エクステージ総合法務事務所・代表行政書士の水口結貴行さんに問題点がないか、などを聞いた。水口結貴さんは、この業者の販売法に対して、「ゲーム等を初めにやることで、『前にいる人の指示に従う』という心の基盤を作らせていくのは、催眠商法ではよくある」と指摘する。また、最初のゲームにも客を催眠状態にする狙いがあると説明してくれた。
さらに、「催眠商法を行う悪質業者は、高齢者をターゲットにしているので、健康問題は切実なもの」。だからこそその不安を上手についている、ということだった。

かつての催眠商法と違って、脅したり恐怖をあおる業者は減少している。
最近、政府が発行したパンフレットでは、催眠商法の新たな手口として「健康講座商法」が紹介されている。その特徴は次のようなものだ。
1.薬効をうたって健康食品を売るのが目的
2.「~だけ」、「限定品」と割安、価値を強調
3.販売員が嘘や大げさな説明をすることもある
同じような販売法で、高額商品を買った人は全国に広がっている。催眠商法の被害者本人が、その効果を信じてしまうと被害を訴えることはなく、家族からの相談で被害が発覚することも多い。

潜入取材をした業者に、販売方法に問題はないのか?と取材をしたが、「店舗では薬事法に触れるような説明は一切行なっていない」と、かたくなな返答だった。
取材ビデオを持って業者本社を訪ねると、社長は「あくまでも原料の漢方薬の説明をしているだけで、健康食品の薬効では無い」と言う。実際に購入者が糖尿病に効くと言われたと尋ねても、「客が説明を勘違いしただけ」との回答だった。ただし、店長が主張していた「データ」の存在を問うと「データについては覚えが無い」とようやく販売方法の違法性を認めた。特定商取引法では、虚偽の説明をして商品を販売した場合は、2年以下の懲役、または300万円以下の罰金が規定されている。
目先の「割安」や「~だけ」に惑わされず、また、過度な薬効をうたっているものは注意をするなど気をつけたいが、被害にあってしまった場合は、できるだけ早く法律専門家へ相談したい。