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若者を狙った悪質商法が横行している
被害に遭わないために、どうすればいいのか?

振り込め詐欺、架空請求、マルチ商法…。悪質な手口を使って消費者を騙す悪質商法が後を絶たない。東京都消費生活センターによれば、消費者からの相談件数は年々増え続け、その殆どが悪質商法に関するものだ。最近では、特に20代の若者からの相談が増えている。
悪質商法に騙されないためには、どうすればいいのか? 悪質商法・消費者問題の専門家、エクステージ総合法務事務所・水口結貴行政書士を交え、悪質商法の被害者と共に対談を行なった。参加者は、架空請求で多額の被害を受けたAさん、高額な宝石を買わされそうになったBさん、セールストークと悪質商法の違いがわからないと言うCさん、自分は絶対に騙されないと言うDさん、マルチ商法をやっていた経験があるEさん、
水口結貴行政書士に、被害者の体験から、悪質業者の手口やテクニックを解説してもらった。

架空請求を信じてしまうのはなぜなのか?
業者は、被害者の弱みにつけ込み、心理的に追い詰めていく

昨年10ヶ月間で、架空請求の被害総額は約40億円にも昇る。対談参加者に架空請求ハガキ等が届いたことがあるか、訪ねたところ、参加者5人中4人が経験有り。実際にお金を払ったことがある人も2名いた。Aさんは、携帯をいじっていた所、アダルトサイトの音声サービスにつながってしまい、「無料」という事で試しに使った所、電話番号が登録されてしまったようだという。その後1ヶ月程後に、知らない携帯電話から電話があり、「利用料が2300円、延滞料が約9万円」と請求されたのだ。そして相手が「警察に被害届を出す」、「払わなければ、あらゆる方法を使って取り立てに行く」等、脅しのようなセリフを次に言われたため、「何をされるのか…」恐怖感に駆られ、合計92,300円を支払ってしまった。
Bさんも、電話を変わった相手がヤクザ風の男が、全く同じように「家まで取り立てに行く」、「東京湾にお前を埋めてやる」等と言われたと話す。
しかし、水口結貴行政書士は「そうは言っても、実際に家に取り立てに来ることはない」と解説。それどころか「『東京湾に埋める』等と言ったら、それは脅迫であって、犯罪」、「実際に業者が来たとしても警察を呼べば大丈夫」と教えてくれた。

個人情報を聞き出して、業者はさらに脅しのネタを手に入れる
あたかも個人情報を取得したかのような画面を出して、消費者を追い詰める

ただ、被害者のAさんは「自分の事を調べられて、周りの人に迷惑がかかるのが怖かった」と言う。Aさんは、聞かれるがまま業者に電話番号や住所、実家の住所等の、個人情報を言ってしまったからだ。「業者は、このような個人情報を聞き出すために電話をしてくる場合もある」と、水口結貴行政書士は解説する。個人情報を取得することで、さらに脅しの手口が増えるからだ。また、「業者は本人が周囲にも相談しにくいだろうという事で『アダルトサイト』を使う。本人が『恥ずかしくて相談できない』という状況にするのが狙い」とも教えてくれた。Cさんは「払うだけで、周りにばれないなら、その方が早いし楽だから、自分も払ってしまうと思う」と言った。
Eさんは、別な架空請求の手口である「1クリック詐欺」について話した。1クリック詐欺メールで、ボタンを押すと「個体識別番号」なる物が表示されたと言う。そこには、自分が居たエリアや携帯番号の機種等も表示されており、非常に気持ちが悪かったとEさんは続けた。そして、期日までに払えと請求されたのだ。現在の携帯電話は性能が進化しているため、エリア情報等は比較的簡単にわかる。但し、エリア情報や機種が表示されたからと言って、これらの情報が悪質業者に伝わっているとは限らないし、そこから個人情報が判明することは無い、と水口結貴行政書士は教えてくれた。

公的機関を騙る、友人になりすます
悪質な架空請求の手口はどんどん巧みになっている

架空請求業者の脅しのテクニックはさらに巧みになっている。最近では裁判所等、公的機関の名を騙り、正当性を装う手口や友人を装って送ったメールからアドレスをクリックさせる手口、「裁判所に告訴する」という脅しメールも。
このような架空請求の場合、「わざと、利用してから3~4ヶ月経った後に請求する場合が多い」と水口結貴行政書士は指摘する。理由としては
○記憶を曖昧にさせる
○時間が経った方が「延滞手数料」の名目で高額な請求ができる
○「債権」等の法律用語を使うことで、「使った自分が悪い」と思わせる
を挙げる。また、架空請求業者には業者なりのマニュアルが在ると水口結貴行政書士は解説する。

一度、騙された人を「カモリスト」として保管する悪質業者
それが二次被害の温床になる
このような悪質業者に騙された人の個人情報を、悪質業者は「カモリスト」として保管する。そして、名簿が別の業者に出回ることで、次々販売等の二次被害を呼んでしまうのだ。「一度騙された人は、また騙される可能性が高い」ということだ。実際に、水口結貴行政書士に被害を相談した人の中には「5回騙されて、200万円を支払った」人もいると言う。悪質業者は「『カモリストから削除してやるから』と言って請求する所まである」ということだ。
実際に、Aさんも同じセリフを業者から言われたそうだ。
また、悪質業者の中には「占いサイト」や「姓名判断サイト」等を装って、氏名・誕生日等の個人情報を取得する所もあるらしい。「個人情報の流出を防ぐのは、事実上無理な部分がある」、「だからこそ、実際に架空請求等が来た時にどう対処するか、が大事」と水口結貴行政書士は解説する。

架空請求業者の脅しに屈しないことが第一
不安な時は、すぐに専門家に相談を

もしも、架空請求業者等から連絡があった場合は、絶対にこちらから業者に連絡はしないこと、個人情報は話さないこと。そして証拠となる業者からのハガキやメールは捨てないでおくこと、が大切だ。

若者を狙うアポイントメントセールスの被害が拡大している

Bさんは、様々な商品が当選するサイトに登録していた事があり、実際にいくつかの商品が当たった事もあったという。そんな頃、「アクセサリーが当たったので来てください」という電話を受けた。アクセサリー類が好きだったBさんは商品を取りに行った所、綺麗な女性が応対し、2時間に渡って商品の購入を勧められ、うんざりしたと話す。その手口は「典型的」と水口結貴行政書士は言う。このような業者は本人が「お金が無い」と言っても「分割でも大丈夫です」等と、どんどん逃げ道を無くしていくトークが巧みだ、と解説する。男性を狙うのは、男性の方が宝石に詳しくなく、鑑定書の見方等もわからないため、騙しやすいからだということだった。また、このような業者はセールストークも非常に巧みで「いつか、結婚するよね。その時に正しい結婚指輪の贈り方がある」などと言うらしい。これと同じセリフをBさんも業者から言われていた。

高額な契約総額は言わず、分割金額のみを提示して
契約への抵抗を少しでも減らそうとする業者

Aさんもアポイントメントセールスの被害に会っていた。女性からの電話で「生活総合会員サービスの案内」と言われ渋谷の事務所に行った所、女性から8時間にも渡り勧誘を受け、なんと100万円以上の契約をしてしまったのだ。Cさんは「自分なら『100万円以上』と聞いた時点で、自分なら絶対に怪しいと思う」と言うが、Aさんは、「値段は、最後の最後で言われたので、段々と洗脳されてしまったようだ…」と当時を振り返った。「このような業者は、契約金額についても総額は言わず、『月々○万円』と分割の金額しか言わない」と水口結貴行政書士は言う。それによって、少しでも消費者の抵抗を少なくしようと狙っているのだ。また、長時間の勧誘によって消費者の判断能力が落ちている時を見計らって契約を迫ってくる。そのような場所に行くと9割方は契約させられてしまう、と水口結貴行政書士は教えてくれた。
マルチ商法では、社会経験の浅い、大学生がターゲットに

マルチ商法は、本人が友人を次々に紹介し、マルチ商法に入会させてピラミッド型の組織を作っていく。勧誘された人は業者から商品を購入すると、勧誘した本人に手数料が入る仕組み。違法であるねずみ講では金銭だけが動くが、マルチ商法では商品が介在する点が違っている。マルチ商法をやっていたというEさんは、自分がやっていた「ネットワークビジネス」について話した。Eさんは健康関連の商品を売っていたが、商品はテレビでコマーシャルが流れていたり、大手の別会社が取り扱っていたこともあって「これなら大丈夫かな」と思ったという。Eさんは、仲が良かった高校時代の友人に誘われ、「あいつがやっているなら、やってみようかな」とアルバイト感覚だったそうだ。Eさんは結局、このマルチ商法を3ヶ月で止める。理由は、Eさん自身が紹介した人から、「自主規定で学生は参加できないことになっている」と知らされたためだ。それを知らされずに活動していた事に危機感を感じたからだ。

クーリングオフ制度は消費者の強い味方
商法(販売類型)ごとにクーリングオフ期間が違うので、注意を

アポイントメントセールスやマルチ商法等を契約した場合、クーリングオフ制度が適用され、一定期間内であれば無条件で解約することができる。Eさんは「自分が、いつの間にか加害者になっていた」と振り返る。「マルチ商法は特に、先輩・友人から誘われる場合が多く断りにくいのも特徴」であり、「人と人とのつながりを利用され、自分も加害者になってしまう」と水口結貴行政書士は解説する。Eさんはさらに、所得も魅力的だったこと、大学時代に何か熱中するものを見つけたいと思っていたことも要因になったと言う。「何かやりたいという気持ちがあるから、そこに付け込んだ心理作成のように思える」とCさんは感想を述べた。Eさんはまた、「大学出て、就職しても初任給はさほど高くないと聞いていた」ため、将来的な不安もあったという。「マルチ商法は『将来お金持ちになれる』と夢を売っている部分もある」、「説明会に参加して『儲かる』と言われると、つい『自分もできる』と思わされてしまう」と水口結貴行政書士はいう。また、「本当は確実ではないのに『皆が儲かる』と業者が言うのは、違法行為」であり、さらに「業者は何か問題が起こると、会社とはしては知らないこと。一部の会員が勝手にやったこと、と責任を逃れる所が卑怯な点」と教えてくれた。

なぜ、悪質商法は無くならないのか?

Bさんがこうした素朴な疑問を問うと、「1つは、日本国民の特性として人の事を信じやすい傾向があること、自分の意見をはっきり言えないこと、嫌だと拒否できないことがある」と水口結貴行政書士は指摘した。
悪質商法は日々、その手口を進化させ、新たな被害者を狙っている。悪質商法の勧誘等で困った場合には、できるだけ早く法律専門家に相談するようにしたい。