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現地取材「3千円のクズガニが1万2千円」
カニカニ商法中身

普段日本人はカニが大好きだ。ある日突然、自宅にカニが送られてきても、代金を払ってしまう人も多いそうだ。
しかし、トラブルも増えている。

今年になって増加中

熊本県内の主婦(76)が玄関に出ると、郵便局員がクーラーボックスから白っぽい紙に包まれた物を取り出して、こう言った。「着払いで2万円です」。
送り主は札幌の水産会社で、注文した覚えはない。受け取らなかった。翌日、遠方に住む息子(50)が、送り主の会社に電話をして「注文していないので、受け取りを拒否する」と言った。
するとすぐに、主婦の自宅へ電話がかかってきた。「お前んところのガキを出せ!」と中年男性の声で、息子と話をさせろと言う。息子は遠方に居る、ここにはいないと答えるが「いいから、ガキを出せ!」と繰り返す。何とかしてカニを受け取らせようとしている、と思った主婦は「カニは絶対、受け取りません」と言って電話を切った。
すると、すぐに電話がなりまた「ガキを出せ!」と言う。すぐに切った。また電話がすぐに鳴った…。主婦は電話に出るのをやめた。

注文していない品物を送りつけて、代金を支払わせる「送り付け商法(ネガティブ・オプション)」。その商品に「カニ」が使われるケースが増えている。通称「カニカニ詐欺」だ。今年(2008年)4月以降の2ヶ月足らずだけでも、群馬、和歌山、島根、熊本各県の消費生活センターに計9件が報告されている。
2006年度は全国で6件、07年度が12件だったのと比較すると、極端に増えていることがわかる。

ドア越しに聞こえた声

熊本県消費生活センターによれば「トラブルがあっても、実際に相談するのは全体の4~5%」程度だという。つまり、実際いはもっと多くの「被害」が出ている可能性がある。どんな業者が売っているのか。
熊本県の主婦にカニを送った業者を訪ねた。「○○水産」の看板がある。近づくと、男女の声が聞こえてきた。「今、カニ祭りやっててね、タラバのセットで、札幌市場で買ったら3万円前後するんだぁ。それを1万7千円で、送料も無料で…」
ノックすると男性がドアを開けた。中では音楽が響き、茶髪や金髪でラフな服装の若者たちが電話勧誘の真っ最中だった。社長は不在だ、という。

-注文していないカニが届いて、代金を請求された人がいますが?
「うちはそういうことはやっていない」
-「ガキを出せ!」などと威圧的なことを言った?
「それは絶対にない」
-いつから営業をしている?
「今年の4月からです」
-会社名で販売していますが、法人登記は?
「登記はこれからです」

「送りつけ」だけではない

「カニカニ詐欺」のトラブルは「送り付け商法」だけにとどまらない。消費生活センターへ寄せられた相談では「勧誘が強引」、「品物(カニ)の品質が悪い」と言った内容が多い。
九州地方に住む主婦(48)は、札幌の業者から2日間で4回に渡り電話勧誘を受けた。断り切れず、タラバガ二などを1万4千円で購入した。しかし、届いた品物は身がスカスカ、味噌も殆どなく「サービスする」と言ったホタテも入っていなかった。
主婦は「話が違う」と返金を要求した。すると「金を返せだなんてクレーマーだ」と拒否された。警察に通報するというと、専務という男性から謝罪があった。しかし返金については「しばらく待ってほしい」と言われたきり、何の連絡もない。

テーブルに投げた名刺
この業者も訪ねてみた。看板などは出ていない。ドアを開けると20代~30第の男女3人がいた。応対した男性に事情を聴きたいと言うと「担当者がいない」と繰り返す。出直す、と言うと「もう、来なくていい」と渡した名刺をテーブルに投げ出した。その後、電話があり「責任者は取材は受けないと言っている」ということだった。

「年中カニ祭り」
札幌のアルバイト情報誌を見ると「通信販売PRスタッフ、主に道外のお客様への電話でのカニのご案内・販売」という募集が多くある。こうした業者を数ヶ所訪ねてみた。すると、電話での売り口上に共通の特徴があることがわかった。

1.身元を明らかにしない(会社名を名乗らない)
「北海道の解散物屋ですが、いつもお世話になっています…」
2.イベント、特別セールを強調する
「今、カニ祭りをやっていまして…」、「今年で創業30周年なので、それを記念して…」などのトークで「今だけ」やお得感を演出する。

3.「本当はもっとする」と言いながら、最初に1万5千円前後の価格を提示する。

「カニ祭りの海上から電話をしている」と言っていた会社に「どこで、カニ祭りをやっているのか?」と聞いたところ「年中、カニ祭りなんで」との答えだった。「創業30年」をアピールポイントにしていた会社は、実は今年設立されたばかりだった。

では、電話をかける相手はどうやって選んでいるのか?
業者に質問すると、どこも「電話帳で」と答えた。しかし、道内のカニ取扱業者の話は違った。「以前、顧客名簿を持ち出した従業員を解雇したことがある。うちだけじゃないはず。他社も併せたら、何万人単位の名簿が出回っているのではないか」。

悪質商法の相談を数多く受けている、行政書士エクステージ総合法務事務所の代表・水口結貴行政書士は、「電話勧誘をする業者に最も重宝される名簿が『カモリスト』と呼ばれるものです」と前置きして、次のように説明してくれた。「過去に、悪徳商法の被害を受けた人のリストは、通常の10倍以上の値段で取引されることもあります。こうした被害者は、繰り返して悪質商法の被害に遭う可能性が高いからです。他にも、通販利用者リストというものもあります。カニ購入者リストがあることも十分に予想されます。こうしたリストを悪質業者が金を積んで買い取ってしまうのです」

流通する「クズガ二」
カニカニ詐欺が増えている背景には、国内に流通するカニが減少していることも関係しているようだ。札幌のカニ卸売会社の営業担当者は「ロシアからの輸入が減って、傷があったり身が少ないなど、以前なら加工用になっていた『わけあり品』でも商品として市場に出回るようになった」と言う。
「以前なら、『クズガ二』扱いで、せいぜい3千円程度の物を、オレオレ詐欺をやるような奴らが1万2千円で売っているようなものだろう。こんなことが続けば、消費者がカニから離れてしまう」。
こんな「カニカニ詐欺」が成立するのも、カニが大好きな日本人が多いからこそだ。あるカニ販売業者の言葉が忘れられない。
「消費者のほとんどは、カニの種類お区別もつかない。もっと勉強しないと、いいカモにされるよ」。