内職商法特集
主婦の間で高まる「パソコン」人気
その心理につけこむ、悪質内職商法が急増
主婦に「どんな習い事をしたいですか?」というアンケートを取ったところ、人気急上昇中なのが「パソコン」だ。そして、この「パソコンを習いたい」という主婦の心理に付け込んだ悪質商法が急増している。その実態とは?
不況の時代を反映してか、今、自宅で空いた時間を使って内職をしたがる主婦が増えている。
街で主婦に「内職」したがる理由を聞いた。
「少しでも、足しになれば嬉しいですよね」
「それは、ありがたいです」
「子どもがいると、なかなか外で働くのは…」
そんな主婦たちの気持ちを利用しているのが「内職商法」だ。
国民生活センターによれば、この10年間で被害は約10倍に増え、中でも「パソコンを使った内職商法」の被害が多い、という。数十万円の教材をローンを組んで買っても仕事は来ず、結局ローンだけが残るということだった。「内職商法」の被害者に話を聞くことができた。
「ローンの支払をしても、手元に3万5千円がのこりますよ」
それならいいか、と思ってしまって…
被害者(守屋さん:仮名)は、業者から電話がかかってきて、勧誘された。子どもが小さく、外へ働きに行けなかったことや当時は高い家賃の負担もあって「何か私にできることがあれば…」と話を聞いた、という。
業者は「資格を取ってもらって、仕事を紹介するシステムです」と言った。「子どもが生まれたばかりで…」と断りかけると、業者は続けて「家で簡単にできるんですよ」、「パソコンが1台あれば、仕事以外でも便利ですよ」と契約を迫るが、守屋さんは「考えさせてください」と電話を切った。
そして3日後。再び業者から電話があり一方的に「パソコンと教材を送りますから」と言われた。そして「試験に受かれば、いくらでも仕事が入ってきますから」「反論する守屋さんに業者は続けて「もう、会員番号を出ているので、辞められない」と言われた。
気になる収入については、「パソコンを使って3か月位、勉強すれば5万円程度の収入になる」と言われたそうだ。業者に押し切られる形で契約してしまった守屋さん。契約総額は、5年間のローンで90万円を超えた。契約の決め手について、守屋さんは「5万円の収入があれば、ローンの1万5千円を引いても、まだ3万5千円が手元に残る」。「それなら、いいか」と思って、と答えた。
えッ? これで90万円?
驚きの教材内容と「仕事なんて無い」現実
守屋さんが買った教材をパソコン雑誌の編集長に見てもらうと、帰ってきた答えは「法外ですね」というものだった。しかも、教材内容についても「かなり雑に作っている」との評価だった。
それでも何とか、教材を見ながら勉強して、仕事をもらえる前提の「検定試験」を受けた守屋さん。しかし、それはとても30分でできるような物ではなく、レベルが高く難しいものだった、と言う。
その後も、何度か業者に電話をして仕事をもらえるように相談したが、業者は「もう少しがんばってください」や「皆さん合格して、仕事をもらっていますよ」といったものばかり。結局、2回目の試験も不合格に終わり、守屋さんは仕事をもらう事を諦めてしましった。
仕事がもらえなかったのは、能力の問題?
専門家に試験問題を見てもらった
パソコンスクールの講師によれば、教材内容を全部取得するには1年程度かかる、という。また試験問題も見てもらうと「寮が多いので、30分では難しい」という意見だった。ある調査によれば、主婦の2人に一人が内職の勧誘電話を受けていた。
「全額が戻ります」。甘い言葉に隠されたワナ
別の例を紹介しよう。
杉山さんの所に業者から、勧誘電話がかかってきたのは去年のことだった。業者は「先日、ダイレクトメールを送って、皆さんから契約のお返事をもらっている。あなたから返事が無かったので、電話した」という。
仕事の内容は、旅行代理店と契約をして旅行のスケジュールなどをパソコンを使って入力する、というものだった。業者が提示してきた金額が、普通のアルバイトよりも高額だったことや「仕事が無いことはあり得ない」と言った業者の説明を信じてしまった。
しかし、仕事をするには「一般旅行業務主任者」という国家資格を取らないといけない。そして、その教材費用が50万円かかる、という話だった。
業者は続けて「でも、このお金は将来、必ず戻ってきますから」と言った。どういうことかと言うと、試験合格時に「50万円の支援が受けられる」。だから「私の負担は一切なく、受けられます」と言われた、ということだ。
この「50万円が戻ってくる」というカラクリはこうだ。
1.業者が教材を50万円で販売する
2.購入者が「A協会」の会員になれば、費用は全額戻ってくる
3.「A協会」は、購入者の学習をサポートするだけでなく、最初に旅行会社に購入者をあっせんする。
4.旅行会社が、購入者に50万円を払ってくれる。
「一般旅行業務取扱主任者」とは、国家資格だ。しかし、旅行会社に話を聞いてみると「自宅で旅行業の仕事をするのに、役立つは思えない」と言う。
さらに複数の旅行会社に、杉山さんが契約した会社名や奨学金(制度)の事を尋ねたが、知っている所は皆無だった。
杉山さんは国家資格取得を目指し猛勉強していたが、サポートしてくれるはずのA協会からは何度か模擬問題が送られてきただけ。しかも、3月を最後に返事すらこなくなった。杉山さんは、「主婦や学生みたいな、お金が無い人をだますなんで許せない」ということ、そして「二度と、ひっかかりたくない」と言っていた。
悪徳商法被害救済の専門家 エクステージ総合法務事務所
代表行政書士 水口結貴先生に話を聞いた
法律の専門家、行政書士の所にも、様々な相談が寄せられている。中でも最近多いのが、こんなケースだという。ある業者と契約をしたもの、思うような収益を得られないということで、「今度こそ、こちらの業者だったら」との思いから、4社、5社と被害を受ける人もいる、ということだ。
また「なぜ、複数の悪質業者と契約をしてしまうのか?」と聞いたところ、エクステージ総合法務事務所 代表行政書士水口結貴先生は、「切実に収入が厳しいので、何とか“損をした分を取り戻したい”という気持ちが働いてしまうようだ」と教えてくれた。
被害者名簿が出回り、何度も被害を受けてしまう
また、水口結貴先生はこんなケースも教えてくれた。一度、悪質業者に騙されると、その被害者名簿が業者間に流出して(出回って)しまう、と言う。
例えば、ある日電話がかかってきて、今使っている教材(内職商法で購入したもの)の進み具合などを聞いてくる。そこで「もう使っていないし、辞めたい」と言うと「辞めるにはお金がかかりますよ。残りの教材を買い取ってもらえれば、辞められます」、「では、また教材を送りますから」などと言い、さらに新しい契約を結ばせる、という。
続けて、「内職商法に騙されると、名簿が出回ってしまう。その名簿を元にさらに勧誘電話をしていく」と教えてくれた。
騙されていたのに、なぜ複数の業者と契約してしまうのか?を、聞いたところ、「切実に収入が厳しいので、何とか“損をした分を取り戻したい”気持ちが強いようだ」話してくれた。
水口結貴先生によると「実は、別の業者が電話をかけてきている」とのこと。
初めの契約とあたかも関連があるかのように話し、「ビジネスセット」なる商品が送られてきて、信用してまた契約してしまう。
日本SOHO協会の川西保夫常任理事は、悪質業者を見分けるポイントとして、次のような点を挙げてくれた。
1.契約前に多額の商品を購入しないといけない(投資が必要)
2.何回もしつこく勧誘を繰り返してくる
3.金額が異常に高い
4.(商品販売の時点で)「仕事を紹介する」と何回もPRする
では、実際に被害にあってしまったら、どう対処するべきなのか。
村 千鶴子弁護士は「契約書面は交付されているが、内職商法の場合に交付すべき書面ではないので、理屈上まだクーリングオフは可能」と言う。
「ただ、業者は承知でやっているので、素人が言っても相手にしない。消費生活センターに相談しないと解決できないと思う」ということだった。
この不況の中、「うまい話」など絶対にない。国民生活センターによれば、内職商法に関する相談は、この10年間で10倍以上になっている、ということだ。
もし、こうした内職商法などに騙されてしまった場合、一人ではなかなか解決が難しい。
行政書士や弁護士、国民生活センターなどへ相談してほしい。