「今使っている電話機は使えなくなる」
高齢者をねらう電話機リース被害が多発
IP電話の登場等、電話の回線種別も増えてきている。それを巧みに利用して、中高年をねらった電話機リース被害が急増している。
被害者のAさんは、包装資材の販売を夫婦で営んでいる自営業者だ。Aさんは、現状について「生活費が全てリース料に行ってしまう」と嘆く。
原因は昨年8月、業務用オフィス機材のリース契約をしたことにある。それは業務用ビジネスフォン。市販はされていない。Aさんの妻は「全然、必要じゃない」と断言する。その他、FAXとコピー機にノートパソコン。会計ソフトは全く使っていないそうだ。
これら機材のリース料金が総額800万円にのぼる。
Aさんは「デジタル化」等、最近の動向は全くわからない、と自ら話す。国民生活センターに寄せられた、電話機リースによる被害相談件数は2005年は8600件を超えている。
リース契約とは、リース会社がオフィス機器等を企業に代わって購入し、一定期間、機器を顧客に貸し出し、顧客がリース料を払うという契約。パソコンや電話機等、次々に新製品が出るような物は、都度、最新機器を買うよりもリースを利用した方が得な場合があり、高額な業務用機器を日常的に使う大企業にはメリットがある。
ではなぜ、家庭用電話機で十分なAさんは、高額な業務用電話機をリース契約したのだろうか。
悪質商法問題の専門家が指摘する問題ある勧誘とは
長年、消費者問題に取り組んでいる専門家、エクステージ総合法務事務所・水口結貴行政書士に聞いた。
水口結貴行政書士は、問題のある勧誘が行われていると指摘する。
「最近のデジタル回線、『IP電話』、『光通信』など、非常に仕組みが複雑になっているため、高齢者の方にはわかりにくい。そこに漬け込んで、巧みに不安心理をついている」と解説する。さらにインターネット回線を利用したIP電話、光ファイバー通信を使った高速回線等、専門知識を持たない中高年にデジタル用語を悪用している、と教えてくれた。
被害者が語る、悪質電話機リース業者の手口
悪質業者を受け、高額な電話機リース契約を結んでしまったBさんに話を聞いた。Bさんは62歳、妻は他界し一人で理髪店を経営している。契約した電話機は「奥にしまってある」というBさん。電話機は段ボールにしまったまま、物置に置かれ、全く使っていない。段ボールの中には、最大12回線が使えるビジネスフォンが。Bさん一人で経営する理髪店には全く必要ない。なぜ、しまっているのか?と尋ねたところ、Bさんは「少しは使ったが、見るにも嫌になって」と答えた。全く使っていない電話機のリース料金は月々42,000円。リース契約期間は7年間で、総額は350万円を超える。
2年前の夏、Bさんの店を業者(男性2人)が訪れ、自社製品の機能をアピールした後、「お宅の電話機がデジタルに対応しているか調べさせてください」と言ってきた。そして業者はBさんの店にあった電話機を調べた後、「お宅の電話機はIP電話や光ファイバーには対応していません」、「新しい装置に取り替えないと、電話機は使えなくなります」と言ったのだ。
Bさんはこのような用語は全くわからず、「今の電話が使えなくなる」という事だけが印象に残った。
さらに業者は説明の中で「電話代も安くなるし、割引もします」と言う。その後2時間に渡る勧誘を受け、契約をしてしまった。「悔しいだけ…」とBさんは言った。
「今の電話機が使えなくなる」は、嘘。事実と異なるセールストークで高額な商材を売る
NTT東日本では、「NTT東日本の都合によって、現在使っている電話機が使えなくなることはない」と説明。つまり、悪質業者が口をそろえて言っていた
「今の電話機は、使えなくなる」は嘘なのだ。
また、悪質業者側は「一従業員のやったこと」としながらも、「リース会社との相談にもなるが、解約手続の相談に応じる」と回答した。一方、リース会社側は、「営業方針や値段設定は販売業者が独断で行なっている」としながらも、「問題が事実ならば、解約に応じ、今後は提携を解除する方針」と回答してきた。
特定商取引法では、虚偽の説明で商品の購入等、勧誘をする行為は「不実告知」にあたり、禁止されている。しかし、事業者の契約の場合は、クーリングオフの対象外となるため、業者はそこを狙っているのだ。Bさんの契約も、契約名義は個人名義ではなく、経営する理髪店名義になっていた。
法の隙間をかいくぐる、悪質業者のテクニック
さらに、水口結貴行政書士は、「実際には個人用として使っている電話、家庭用の電話にも関わらず、さもビジネスで使っているように屋号で契約書を書かせたり、事業を行なっていないのに、屋号をでっち上げて書かせたりすることも問題」と教えてくれた。
元、悪質電話機リース業者の従業員が証言。その手口
電話機リース会社に勤めていたという、元従業員に話を聞くことができた。元従業員は契約勧誘の手口について、「この電話機は電子機器がおかしいから使えなくなる」や、中には「爆発します」とまで言って契約をさせた営業マンも居たという。
大抵の客が迷うので、営業マンは「安くなりますから」、「便利になりますから」とプッシュするのだ。「アナログ回線からデジタル回線に切り替えます」等、嘘もつくと証言した。