被害総額20億円 詐欺商法で荒稼ぎする悪徳宝石業者
「もう男性は誰も信用できなくなりました。全部、忘れたいけれど…。悪質な業者は絶対許せません」。
こう怒りをあらわにするのは東京都在住の鶴田さおりさん(仮名・32才)だ。彼女は東京と福岡で宝石販売を起こっていたT社(福岡での名称はD社)に騙され、昨年までに300万円以上のローンを組まされていた。
T社のやり方はこうだ。まず、男性販売員が若い女性を狙って電話で勧誘し、その後、恋人関係を偽装して、女性と親しくなる。そして恋愛感情を利用して次々に高額ローン契約をさせる。いわゆる「デート商法」だ。
T社の電話勧誘にあたっては「恋人呼び」と題するマニュアルが創られていた。そのマニュアルには、会話の進め方などの「台本」のほか、「相手を○○ちゃん(名前)で呼ぶ」、「恋人のように話す」、「軽く外で会う」等の指示があった。趣味やプライベートな話題をしながら相手の心に入り込む作戦だ。
さらに、T社は「接客マニュアル」を作って、販売員と客との“店外デート”を奨励していた。マニュアルには「男女の関係なんだと勘違いさせる」、「最低でも10回は相手を褒める」、時には手を握ったり、体を触ったりして恋人のように振る舞う」など、細かく指示が並んでいた。さらに「クーリングオフ期間内(購入契約後8日間)は、毎日電話とメールで連絡を取り合い、キャンセル防止をすること」と用意周到だ。
「特定商取引法」違反の疑い
そして、鶴田さんは底なし沼のように相手の言いなりになり、借金を重ねていくことになった。結婚をほのめかされていた上に、「お前のことを考えてデザインした」や「宝石を扱う人間と一緒になるんだから恥ずかしい物を持っていてはダメだ」、「売上がきつい。このままじゃ、いつまでも結婚できない」などと言われ、彼を結婚するつもりだった鶴田さんは、「彼に協力するつもり」で、約200万円でピンクダイヤモンドのリング、パールのネックレスを買うことになった。
彼に嫌われたくない一身で、何度も商品を購入した鶴田さんは、短期間で300万円以上のローンを抱えることになった。そしてローン審査に通らなくなると、男からの連絡は途絶えた。会社に電話をすると「体調不良で休んでいる」と言われるだけ。
「だまされた、と気づいた今でもローンは100万円以上も残っています…」鶴田さんは深いため息をついたー。
消費者問題の専門家が指摘する、悪質業者の問題点
こうした販売手法について、悪徳商法の相談を数多く受けているエクステージ総合法務事務所の代表・水口結貴行政書士は言う。
「まず、電話する時点で正式な社名と販売目的を告げていないなら、特定商取引法違反です。(T社の)電話勧誘マニュアルによれば、キャンペーンの招待状を送ったか確認の電話をすることになっているが、実は送ってはいない。これは不実告知にあたり、2年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいはその両方が科せられます。そもそも『連絡が遅れているみたいで申し訳ない』という文言がマニュアル化されている時点で、送っていないことになりますからね」。
さらに、水口結貴行政書士は続けて「『勘違いを誘発させる』の文言は、組織的で悪質。男女の仲であると勘違いさえたうえでの契約は公序良俗違反の行為なので無効であり、契約を解除できます。商品の金額、支払い方法、品物の価値や品質、クーリングオフの説明など重要な事実を故意に告げないと、重要事項の不実告知となり、これも2年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはその両方が科せられます」と説明してくれた。
「100万円の価値はない」
そもそもT社の商品に金額分の価値があるのか。看板商品のダイヤの大きさは、鑑定書には0.034カラットと書いてある。鑑定士に聞いてみると「0.1カラットあればまだいいが、そこまで小さいと…、おそらく数百円から2000円位ではないでしょうか」との回答。100万円で購入したことを告げると「えっ?それは、どういう付加価値があるのかにもよりますが、あまりにもおかしいというか…」と困惑気味に言う。
前出の水口行政書士も「こんな品物を100万円以上の値段で売れば、詐欺と言われてもしかたがない暴利行為。著しく価値を誤認させてお金を取っているわけですから」と指摘する。
実際、福岡県警にはT社関連少なくとも5件の相談あるいは被害届が出され、福岡県消費生活センターにも解約仲介依頼や苦情が寄せられている。
匿名を条件にT社の元営業マン(26)が、驚くべき実態を明かした。
「営業マンは東京に30人位、福岡には15人位がいて、それぞれ年間で20~30人の“顧客”を抱えている。顧客一人から平均で150万は取る」。
単純計算しただけでも、年間の「被害総額」は全体で20億2500万円にもなる。この恋愛偽装を成功させるため、T社はイケメン営業マンばかりを集めていたという。
返済に困り風俗でバイト
だが、金の切れ目が縁の切れ目。元営業マンは続けてこう言った。「ダイヤモンドなんて5000円もしない代物。相手の年収によって売る額を決めて、クレジットが限度額いっぱいになったら消費者金融で借りさせる。相手の女に風俗で働くことを勧める同僚もいた。俺も最高で800万円を売ったことがある。最終的に電話やメールを減らして、関係を自然消滅させればいいだけの話。特定商取引法? そんなの知らないね」
九州地方に住む派遣社員の山本洋子さん(仮名・30才)も被害者の一人だ。
「ファミリーレストランで会ううちに呼び捨てになりました。突然、ネックレスを2つ出して『どっちが好きか?』と聞かれ、1つを指しました。『これは恋人同士が付けるものだ。ペアで持とう』と言われ、気がついたら契約書にサインをしていました。64万円です。何カラットと言った説明はなく、単に『希少価値が高い』とだけ。彼からは『つきあってほしい』と言われ、デートもしました。後はなし崩しです」。
福祉関係の仕事をする大石加奈さん(仮名・24才)も同じ営業マンに総額400万円もの借金を背負わされて、警察に被害を訴えた。
「最初、4人の男性に取り囲まれ、買うようにしつこく勧められました。結局、現物を見ることもなく契約書にサインをさせられた。その後も、商品を取りに行ったりするたびに新しい商品を勧めてくる。『俺が加奈ちゃんのために直接、パールの養殖場から持ってきた価値のあるもの』と言って、買わされたこともあった。彼を好きになってしまったせいもあって、頼られると弱かったんです」と力なく言った。
こうした被害者の化は悲惨な状況をT社はどう考えているのか。当社からの質問状に対し、T社社長から文書で回答があった。
「客をダマす目的で作成されたマニュアルは存在いたしません」。強引な販売と暴利行為については「適正価格に基づいた金額で販売しているもの」で暴利販売はしていない」と主張する。さらに恋愛関係、肉体関係の偽装についても前面否定してきた。福岡のD社はコメントを拒否した。
T社の接客マニュアルには、同社の「座右の銘」とでも言うべきキャッチコピーが踊っていた。「相手の心が落ちれば、お金も落ちる!!」
数多くの女性の心をもて遊んだ悪徳業者は、さて、どこへ落ちるのか…。